桜の季節になると、私は緩和ケア病棟に入院中のある方を思い出します。
特に、日本人にとって、桜の花に寄せる想いは格別だと感じます。
病気の身でありながら、他の方にも大変温かい思い遣りのある方で、お花見を楽しんでほしいとの申し出と共に、ひと鉢の桜の木が届いたのです。
残念ながら、その方はベッドから起き上がるのも困難な状態でした。
毎日が綱渡りが続く状況の中で、一輪だけ、花が開きました。
ベッドで、力なく痩せ細ったその方に、看護師と共に、桜が咲いた知らせに、自ら、起き上がろうとします。
車椅子で、桜の鉢のあるホール迄、ぜひ行きたいと。
開花した一輪の桜の花を静かに見つめ、フーッと大きく息を吐きました。
そして、私の手を取って、桜が咲き終わったら、自分の命は終わるが、自分の生きた証しとして、病院の敷地に植えて欲しいと。
今年もその方の想いの籠もった桜が、多くの病氣の方を楽しませてくれるだろうと、想いを馳せています。