リンゴの唄

病棟の看護師さんが、「『リンゴの唄』を歌ってくれるボランティアさんはいませんか」と。

 

病棟に向かうエレベーターの中で、私はリンゴの唄と言われると、もう一つ「りんごのひとりごと」が思い当たった。

私の記憶も朧げで自信は無いので、頭の中で歌詞を口ずさんで居た。

 

「ボランティアさんが、歌ってくれるそうですが、並木路子の『リンゴの唄』でいいですか」

目を瞑っていた高齢で白髪の女性は、パッチリ目を見開いて、大きく頷きました。

 

「赤いリンゴに くちびる寄せて〜」と耳元で歌い始めると、乾燥してカラカラの声を振り絞って、口元を見ているとしっかり覚えていて一緒に歌っています。

その表情は、希望が叶ってとても嬉しそうな表情です。

 

 

その数日後、担当の看護師さんから、悲しい知らせがありました。