天国も極楽も満席

「明日から抗がん剤治療の為、入院します。時間があったら病院を訪ねて欲しい」と、病院名がメールで送られて来ました。

 

検査の結果、その後の治療についても詳細に書かれている内容に、私は相手の気持ちを察すると、返事に言葉を探します。

 

これまでに色々な宗教を信じて大切にしている方と、お話し相手をして来ました。

 

その方も自分の苦しい気持ちを、信仰によってセルフコントロールしている事に、「本当は縋れるものがあれば、縋り付いたが、何処かで納得というか信じ切れない、任せられない焦りを感じ、苦しく、つい貴女に話す事でその時間だけ、気持ちが落ち着くの」と、ふっと漏らした言葉から、逆に、大切にしている信仰に苦しみを深くしているのではないかと、想うのですが。

 

大変理性のある方ゆえに、病気との闘いと自分が一番大切にしている信仰にも疲れ、バーンアウトするのではと察しながら、彼女の言葉に黙って頷き聴いていました。

 

「これから、こんな苦しさを抱え続けるのであれば、もう早く神様が呼んでくれないかしら」

矢張り私が案じていた気持ちを吐露しました。

 

一瞬、相槌を打つ問いかけでは無く、私は絶句しましたが、気を取直して「あのね、今、天国も極楽も、満席みたいよ」

 

恐らく、こんな時に不真面目な対応だと思われますが、相手の気持ちは汲み取っても、私は一瞬でも病気という重い荷物から、少しでも軽くなって欲しいという想いが働きます。

 

彼女は私の予想もしない返事に、「そうかもしれないわね。順番待ちね」

と、フッと表情が和らぎました。

 

その後、入院時に何度か訪ねましたが、空席ができたのでしょう、最期は静かに旅立たれたそうです。