夕刻、関西在住の親友の娘さんから、「母が倒れて、今、集中治療室にいます。とても辛くて、不安で」と、後は言葉にならない状態です。
咄嗟に時計を見た私は、これから直ぐに新幹線に乗れば間に合うと思い、娘さんに私の意思を伝えながら、駅に向かっていた。
親友だが、随分ご無沙汰で、娘さんにも確か小学校時代に会っただけで、直接病院に向かうつもりでいたが、娘さんが新幹線到着の時間にホームに迎えに行きますとの連絡が入った。
「今のところ、安定しているので、一刻も早く会わせたいので」
病院まで行く間に、娘さんは涙を拭いながら、経緯を話し始めた。
父親を早くに亡くした親友は、3人の子供を育て上げ、現在は二世帯住宅で、娘さん夫婦と住んでいる。
娘さんは夫が単身赴任の為、娘さんの家で食事を共にするのが通常で、今朝も母に声を掛けたが、答えがないので、部屋に入った。
母はソファに横たわっていたが、応答が無いので、救急車を待っている間の時間の長さに不安が走って、部屋中を歩き回っていた。
娘さんは、私にもう少し早く気が付いていればと、後悔している苦しさがひしひしと伝わってくるが、私は、娘さんをそっと抱きしめるに留めた。
集中治療室の親友に、私は声を掛けた。
微かに大きな息を吐いたように見えた。
最後まで、耳は通じるので、周囲を気遣いながら、想い出話をゆっくり、ゆっくり、話し続けた。
つぶったままの目から、一筋の涙がうっすらと流れた。
良かった。親友に確かに伝わっていた。
「声なき声」の親友に寄り添うことしか出来ないのが残念だ。
三日後、娘さんから、悲しい知らせを受け取った。
もう一度、親友の笑顔と声を聞きたかった。