柴犬と夕化粧

今夜は中秋の名月と満月が重なるという宇宙ショーを楽しみにしていた。

 

前日の28日に、気まぐれ天気の可能性もありやと、前日の18時ジャストに8月のスタージャンムーンをバッチリ捉えたスポットに足を運んだ。

 

夕刻5時29分日没、5時32分東から月の出、5時40分が目安との情報をゲットしていたが、5時過ぎからそわそわと落ち着かず、早々と目的地で待つことにした。

 

しかし、昨夜と空の表情が違っていることを案じながら、スポットである橋を行ったり来たりしていた。

 

柴犬が、私の目の前で急に立ち止まり、橋の欄干下の柵から頭を乗り出し覗き込んだ。

 

釘付け状態でびくともしない柴犬が川に落ちないかと心配になった。

 

飼い主はリードを手繰り必死の表情をしている。

 

私も思わずその柴犬が関心を持っている川面を見下ろすと、明かりが点いた屋形船が料理の下準備をしている。

 

嗅覚の鋭い犬は、恐らく下準備中の食材を嗅ぎ付けたのである。

 

リードを握りしめて困惑の表情をしている飼い主に、「ワンちゃん、屋形船の食材が気になっているのでは?」と話しかけた。

 

「ああ、そうなんですね」と、笑みが零れた。

 

頑として動こうとしないフリーズした柴犬と飼い主との綱引きが続いた。

 

見あげた空は、夜空にグレーのベールのような雲が広がっている。

 

小一時間、橋の上で川風に吹かれていた私は寒くなり、踵を返した。

 

楽しみにしていた宇宙ショーは叶わなかったが、道すがら今が盛りの白い

夕化粧が咲き競い、私の心を和ませてくれた。