杏の実

今年の杏の花は、例年になく枝が見えない程の花盛りだった。

 

その後も、気になり機会があると、杏の木を見守ってきた。

 

何故かといえば、もう遠い昔、植木市で買ってきた杏の木が成長して、土に返した方がと、知人の庭に植えたものである。

 

そっと、我が子を手放すような気持と察せられる父親は、誰に知られることなく、植えたのである。

 

やがて、大きく育った枝には、花が咲き、実をつけ、やがてまん丸くオレンジ色の実に染まるのである。

 

毎年、ご近所の「宜しければ、どうぞ」とバスケットに取れたての杏の実を、さり気無く玄関先に置いている。

 

今年は、近年になく果実の器量が素晴らしく、私も一粒持ち帰り、亡き父親に「お父さん、今年の杏はとても美人だよ」と話しかけた。

 

一粒だが、部屋に杏の甘い香りが広がっている。

 

今年も父親の杏への想いは、世代を超えて引き継がれている。