春のダイヤ改正

2020年3月25日を最後に、私はふるさとの山陽本線の鴨方駅に下車する機会のないまま、「ふるさとを恋うる一人」である。

 

今年も春のダイヤ改正と共に、新しい時刻表が刊行されている。

 

2018年の6月を機に、私はコロナ禍で、規制されるまで、凡そ、月に2回の割合で、ふるさとの母校の小学校に帰郷していた。

 

母校の後輩のために、あるいはふるさとを関東圏にも周知したいとの想いから、すっかり、様変わりしたふるさとではあるが、新しい発見が楽しみであるとともに、何よりも子どもたちのキラキラ輝く笑顔と瞳に、新幹線に乗っていることもあった。

 

母校に帰ると、「只今」「お帰りなさい」という、実家の亡くなった私には、何よりも生きがいであり、心の支えになっていた。

 

何しろ、母校には61年ぶりで、もちろん嘗ての木造の駅舎ではなく、モダンな高架スタイルに変わって居た。

 

当時は、無人駅ではなく、駅員さんが常駐していた。

気楽に、「私、六条院小学校の卒業生で、昔の面影はないですね」と、話しかけたところ、「じゃ、ふるさとの記念に時刻表をどうぞ」と、バッグに入るコンパクトな時刻表を渡された。

 

その翌年には、山陽本線は無人化が進み、ふるさとの鴨方駅もラッシュ時のみ、駅員さんがいるといった時代に変わって居た。

 

2019年、偶然にも昨年の駅員さんが覚えていて、2020年の時刻表をプレゼントしてくれたのですが、とうとう、それを利用することはなかった。

 

というのも、2020年の3月25日の新幹線の予約は、既に時刻表を開くことなく、購入を済ませていたからである。

 

渡された時刻表には、山陽本線の時刻表は名刺サイズで挟まれていた、その名刺サイズの山陽本線の時刻表は、未だにどうしても手放すことが出来ず、今でも、引き出しに収まっている。

 

コンパクトなダイヤ改正も、先月、長引くコロナ禍に、もう、帰郷することはないと、整理した。

 

2020年の3月25日は、菜の花が私の背丈以上に伸び伸びと、ビタミンカラーの花をつけ、私の大好きなクリサンセマムノースポールの花が真っすぐ「あさくちブルー」を見上げて咲いている。

 

今や、最後となった母校の花を、永遠に忘れることがない大切な思い出であり続けると想っている。