井上靖氏で思い出す

令和2年の未だ松の内の4日、井上靖氏が1969年ノーベル文学賞の候補に推薦されていたというニュースを知る。
残念ながら結果は選考から漏れたという報道に、私は瞬時に思い出した。

大学を卒業後、文藝春秋社の「小泉信三編集室」に在籍していた。
井上靖氏の小泉信三氏による著書の「海軍主計大尉小泉信吉」に触れた講演の記録を聞く機会があった。

井上氏に拠れば、信三氏の一歩の歩幅が、子息の信吉に二歩で後ろから追い付こうとする微笑ましい親子の風景について、語っている。
ともすれば、読み過ごしてしまいそうな場面に、気づく心細やかな井上氏の感性が心に残っていた。

もう一つは、井上靖氏原作「通夜の客」の映画「わが愛」である。
改めて検索すると、1960年に五所平之助氏により映画化されたとわかる。
製作年には、私は、未だ10代なので、後にテレビの放映だと思う。

唯、鮮明に覚えているのは、ファーストシーンの有馬稲子演じる水島きよの喪服姿の美しさに魅せられたのである。
残念ながら、そのシーン以外は記憶に無く、こんなに喪服姿が私に強烈なインパクトを与えるとは思わなかった。

今回、改めて原作について検索したが、ストーリーの記憶は無く、喪服姿のワンシーンのみを記憶に留めているだけだった。
いつしか、私の中では、喪服の似合う女性になりたいとの憧れだけが今も記憶に残る。

共に羅列するのは、私の中で躊躇いもあったが、思い切って親子の愛情と、秘めた愛情を無くした様々な悲しみに想いを馳せてしまった。