お懐かしゅうございます

毎朝、先ずは新聞に目を通すというルーティンから、一日が始まる。
そのルーティンに沿って、日本経済新聞との長年のお付き合いの中でも、今日17日の朝刊の経済欄に、「松下元日銀総裁が回顧」という記事に、私は驚いたというか懐かしさを覚えた。

松下元日銀総裁ではなく、私が存じ上げているのは太陽神戸銀行銀行、さくら銀行の頭取としてである。

松下頭取とは、銀行のエレベーターに私が偶然乗り合わせた事に始まる。
「頭取様でいらっしゃいますね。初めまして、私、此方に口座を持っています淺野マリ子と申します」と、恥じらいも無くご挨拶を、頭取からは「それは有難う御座います」

その日の内に、葉書で「先程はエレベーターで、突然お声を掛けて失礼致しました、淺野マリ子で御座います」と、再度不躾な行動にご挨拶を認めたのです。

アメーバ企業の私も、新年の名刺祝賀会には、必ず出掛けてましたが、当時は女性の姿は見当たらず、入り口で、祝賀会の所属指名を読み上げるのである。

一瞬、辺りの雰囲気に変化が感じられる程、未だ女性の進出は珍しかった時代である。
新年の初日4日の午前中に、例え小さなグラスに日本酒は五臓六腑に染み渡る程であると同時に、衆人の興味ある視線を感じるものの、私は 何処かで開き直っていた。

気がつくと、松下頭取がポツンとお一人でいらした。私は、思わず頭取に歩み寄ってご挨拶をすると、「貴女の様な気さくに声を掛けて欲しいのですが」と笑みを浮かべ、美術の話に終始した記憶が今も、今日の新聞から懐かしく思い出した。

今は個人情報重視で、企業人の個人邸は殆ど明らかにされない時代であるが、嘗ては企業の個人情報も入手しやすい環境にあり、私は個人邸訪問も重要な事業の為に欠かせなず、時間があると、奥様にティータイムに訪問して親しくさせて頂いた。

日銀総裁を辞した後、ある相談にご自宅をお訪ねした際に、お孫さんの手を引く姿に全てをやり遂げた頭取の想いを察し、私は目的を告げる事なく静かに辞した記憶を思い出した。

17日の日本経済新聞の記事によれば、97年の山一への特別融資について「誰かが悪者になり決着」との回顧に、正にその通りのお人柄を偲ばれたのである。