墓前に誓う

朝からどんよりとした重苦しい雲が空を覆っている。
しかし、今年のお墓詣りは、久し振りに両親に色々と積もる話というか、語り掛けたかった。
そう思って、いざお墓に向かうと、「全て分かってるよ」と言った声が聞こえてくる様だ。
また、新しい生き甲斐に出会い、その想いを理解してくれるのは、両親だと思うから。

曾て、父親から自分は長男の身でありながら、弟に一切合切任せて、都会に飛び出したと聞いた。
その時、私の祖父にあたる父親は、出発の朝、何処かに早朝から出掛け、見送られないままで、都会の生活が精一杯で、帰郷する事も避けたという。

然し、いざ、戦禍が近くまで及んだ時、頼ったのは、実家だった。
そんな自分勝手な私達を、喜んで受け入れてくれたが、何一つ、弟夫婦に、また故郷に恩返しが出来なかったと、染み染みと話してくれた父親を思い出していた。

然し、母親から聞く父は疎開先で懸命に、これまでの故郷への償いの様に働いていた姿を私も子ども心に鮮明に残っている。

墓前の前で、もう70年近い昔の両親の姿が突然、私の頭を過ぎった。
今、私は、30年近い活動から、また、新しい生き甲斐へと進もうとしている。
この報告というか、誓いを話したかった。

気が付くと、空には雲が消え、いつしか晴れ間に変わっていた。
つまり、両親も私の想いを受け止めてくれたと、思えるお墓詣りになる。